枠にとらわれない「就活」体験記 ~Out of the boxに将来を描きたい!~

「就活」、全然できなかった…?

 私は現在、ポーランドにあるワルシャワ大学に留学中。日本より一足早く冬の空気を感じながら、この夏を振り返って書いています。
 大学3年生の夏といえば、「就活」。そう考える学生は多いかもしれません。あの子は今○○のインターンに行っている、既に内定をもらっている人も中にはいる、なんて話が以前よりよく聞こえてくるようになりました。私はというと、有名就活サイトで企業を調べてみても、どれもピンとこず…。そんな感じで、多くの学生が参加する夏のインターンシップにはほぼ参加しませんでした。周りの人より動けていないのでは、と焦るときもありましたが、この夏を振り返ってみると、ある1冊の本をきっかけに、将来につながる体験をすることができました。

一冊の本から

 私は、昨年度3Qに履修した和栗百恵先生の「地域共創論」という授業をきっかけに、まちづくりに興味を持ち始めました。そこで出逢った大人たちは、自分がどうありたいかを起点に、自分が暮らすまち、そこから広がっていく社会をよりよくしようと、何かを創り出している方々でした。そんな働き方、あるいは生き方に憧れを抱くようになったのです。しかし、具体的に自分が「まちづくり」にどう関わりたいかは中々見えてきませんでした。そんな中、和栗先生が一冊の本を紹介してくださいました。それがこちらです。

荒昌史『ネイバーフッドデザイン-まちを楽しみ、助け合う「暮らしのコミュニティ」のつくりかた』、英治出版、2022年

 近くに暮らす人との「ゆるやかなつながり」をつくり、「孤育て」、単身高齢者増加、そして防災など様々なまちの課題解決につなげていく。そんな都市部におけるコミュニティ開発について、著者である荒昌史さんが代表取締役を務めるHITOTOWA INC.が実践してきた例を交えながら、その考え方やメソッドを紹介している本です。
 さらに、同著の編集協力者である、渡邉 雅子さんを中心に開催された読書会、「著者と語らう、『ネイバーフッドデザイン』」に和栗先生がお誘いくださり、参加することにしました。

「糸かお」での出逢い

 「著者と語らう、『ネイバーフッドデザイン』」は、8月3日(水)、糸島の顔が見える本屋さん(通称:糸かお)というブックマンションで行われました。ここでは、それぞれ自分の棚を持つ100人の店主が、交代で店番をしています。雅子さんも店主の一人。個性が並んだ100の棚、やさしい木の床と黄色い壁、そんな面白く暖かい空間にうっとり。すぐに「また来たい」と思いました。参加者は、私の他は社会人。不動産会社やディベロッパー会社で勤務されていた方、地域の子ども会に携わっている方、プログラミング講師をしている方など、みなさん様々な形でまちと関わっていました。まずは全員自己紹介をした後、荒さんが著書についてお話し、その後参加者が、それぞれの活動を背景に感想を語り合いました。
 授業以外で社会人と関わる経験がまだ乏しい私はかなり緊張していましたが、『ネイバーフッドデザイン』を読んで考えた、若者と「つながり」について意見を共有できました。
 
 本では、昔よりも地域間のつながりが弱く、プライバシーを守ることが重要視された環境での暮らしは、他者に対する寛容性を低くしてしまったという内容が書かれていました。私は、現代の多くの若い人が、狭い空間(学校など)で、仲のよい人とは「つながり」を持とうとするけれど、それ以外の場所ではあまり自分を開示せず、「つながり」を避けようとしているように感じていました。そして本を読み、それは生活環境ゆえに育まれた寛容性の低さが影響しているのでは、と思いました。他者に対し寛容性が低いからこそ、自分も他者に受け入れてもらえるか不安になりやすく、「つながり」を作ることに積極的になれないのかもしれない…そう考えたのです。
 社会人参加者に囲まれ、「まだ学生の私はここでは何も与えられないのでは」という不安感を抱いてしまいました。「それでも私なりの目線で、何か伝えたい。」そう考え、自分の意見を発信することができました。

立ってお話をされているのが著者の荒さん。手前右にすわっているのが私です。糸かおの温かな雰囲気の中、お話を伺いました。

やらかしも「まあよかった」と言えた

 読書会終了後、お話してくださった著者の荒さんに、お礼のメッセージを送りました。するとなんと、「『ネイバーフッドデザイン』のお話を著者の荒さんから伺おう!」という別のイベントのお誘いをしてくださり、参加することに。こちらのイベントは、久留米市にある、シェアオフィスMekurutoで8月6日(土)に開催されました。ここでは、ディベロッパー、不動産業界の方、大学教員から市議会議員など、様々な形でまちづくりの仕事をしている社会人の方々が参加されていました。今回も学生は私ひとり。ここでは糸かおでのイベントよりもさらに圧倒される体験をしました。

 それは会開始直前に行われた名刺交換。恥ずかしながらこういった場で名刺が必須だと知らなかった私は、名刺を交換し談笑する大人たちの輪に入れず。「やらかした…」と冷や汗をかきました。少し落ち込みましたが、このまま帰るわけにもいかないと気持ちを持ち直しました。そして、会終了後に再度訪れた名刺交換の場では、私の地元、宗像市で活動されている方や、新卒でまちづくり会社に勤務している方などとお話することができました。
 ここで驚いたのは、自分が結構早く失敗の落ち込みから切り替えられたこと。これまで学内で活動する中で、失敗したからこそ学べてよかった、という経験がたくさんあったのです。なので、少し落ち込みはしながらも、自分が今コンフォートゾーン(不安が少なく、居心地のいい場所)から足を踏み出していると客観視して、「来たな、成長チャンス…!」と思うことができました。そしてまたここで、やらかしを乗り越えられたという根拠のある自信を、ひとつ獲得できました。

 帰り道には、荒さんとゆっくりお話ができました。その日の感想から、私のキャリアについての悩みまで、たくさんお話を聞いてくださり、さらに東京のインターン生と交流する機会まで提案してくださった荒さん。まちづくりに興味を持つ東京の学生がキャリアについてどう考えているのか非常に興味があったため、非常に嬉しく、ありがたく感じました。
 

ビルをリノベーションして作られた空間。みなさん荒さんのお話に集中されていました。

現場を訪ねて感じたあたたかみ

 それから約3週間後、後期からの交換留学を控えている私はビザを取得しに東京へ。その際に、HITOTOWAがネイバーフッドデザインを実践している、ひばりが丘団地を訪ねました。ひばりが丘団地は東京都西東京市と東久留米市にまたがって位置する、戦後につくられた大規模団地です。そんなひばりが丘団地の再生事業が進む中、エリアマネジメント組織である一般社団法人まちにわ ひばりが丘が2014年に立ち上げられました。2020年からは住民体制に移行されているそうです。拠点となっているのは、旧テラスハウス118号棟を改修して誕生した「ひばりテラス118」。

建物内には、カフェや、地域住民の方によるお花屋さん、ハンドメイド雑貨のお店、商用利用もできるレンタルスペースが。地域住民が気軽に足を運べる場になっていました。

 団地の案内をしてくださった荒さんご自身もひばりが丘に住んでいらっしゃり、自分が関わったまちでこうして暮らせて嬉しいと話されていました。そんな荒さんの言葉や、実際に訪れて感じた団地の温かい雰囲気から、「素敵なお仕事だなあ」という気持ちがじんわりと湧きあがってきました。
 

住民の方とも!出逢えた防災WS

 その後9月になり、HITOTOWA主催のあるイベントのお手伝いをする機会をいただきました。9月3日(土)に、JR「さいたま新都心」駅周辺エリアに位置するSHINTO CITYで行われた防災ワークショップ。当日は対面とオンラインのハイブリッド開催で、私はオンライン上でファシリテーションのお手伝いをしました。SHINTO CITY住民の中に、福岡の大学生がひとり、という状況。どのように自分の立場をとらえて、住民の方とコミュニケーションをとるとよいか、担当してくださったHITOTOWA社員の浅野北斗さんに相談したところ、「一緒に学ぶという立場で話したら大丈夫」とアドバイスもいただきました。ブレイクアウトルームで会話が途切れそうになることもありましたが、率直な自分の感想も共有しながらなんとかつないで、住民のみなさんが意見を出し合える場をつくることができました。中には、「こういう交流の場があることが本当にありがたい!ぜひ今後も続けてほしい」と話されるも。ネイバーフッドデザインの価値を直に感じられました。また、テーマであったマンション防災のお話は、避難生活の準備という切り口からも目から鱗でした。避難訓練だけでなく、避難生活の訓練も必要だと感じ、これは初年次全寮制の福女大、その寮であるなでしこ寮でも取り組まなければならないのでは、と福女大における課題も見えてきました。

 このイベントではHITOTOWAのインターン生も運営をしていました。この日は簡単な挨拶程度しかできませんでしたが、次の交流会でたくさんお話ができました。
 

インターン生と語ったキャリア

 9月9日(金)、オンライン上で、HITOTOWAインターン生との交流会に参加しました。HITOTOWAでインターンをしている東京の大学生6名(3、4年生と院生の方が1名)と、興味を持った福女大の学生4名、そして企画してくださったHITOTOWA社員の浅野北斗さんと一緒に、主にキャリアについて自由に語り合う場となりました。冒頭で荒さんも参加してくださり、HITOTOWAについて改めてお話くださりました。学外、しかも東京の学生がどんな就活観をもっているのか、どんなことをしているのか、非常に気になっていた私。悩みを相談したり、やりたいことと仕事は一緒がいいか?仕事をしてお金をもらうことについてどう考えるか?といった問いに対し語り合ったり。各自の価値観が表れていて、本当に人それぞれだなあと感じられる時間でした。就活をすでに終えた方からは「みんなこんだけ考えて行動しているから大丈夫!」という力強い励ましも。同じ分野に興味があるもの同士の語り合いに力づけられました。

枠を外せばこれも「就活」

 それまでぼんやりと持っていたまちづくりへの興味。この『ネイバーフッドデザイン』という一冊の本から始まった体験を経て、自分は人の日々の暮らしをよくすることに興味があるのかも、とより具体的になりました。また、心地よい人のつながりを感じられる場に多く訪れたことで、自分はそういう場が好きと感じることに気づきました。これまで「カタカタ」という企画で社会課題を気軽に語り合える場を学内でつくってきたことも振り返り、やっぱり自分は場をつくることにわくわくするなあ…これを仕事にできたらいいなあ…とも思いました。また、これまであまりできていなかった、社会人の方々とお話し、学ぶという体験もたくさんできました。

 就活サイトで示されているお手本のような3年夏の過ごし方ではないと思います。でも「就活」を「入試」のように制度上の中だけで取り組むものではなく、「卒業後に何するかを考えて、行動すること」だととらえるなら…私はこの夏十分「就活」ができたと思います。
 学内での様々な学びの場に飛び込み、自分にはこれができるんだ、という経験を少しずつ積み重ねていなければ、このようには行動できなかったと思います。身をもって経験したという根拠のある自信の大切さを改めて感じました。
 そして自分でつかんだ部分もありますが、機会をたくさん与えてもらったことに本当に感謝しています。まだまだ未熟ですが、与えられたものを自覚し、相手に伝わる感謝ができる人間になりたいなと思います。
 

留学で、もっと自由に

 先ほども少し触れましたが、今年度後期、半年間ポーランドのワルシャワ大学地理・地域研究学部に交換留学をします。今の私の課題は、「こうしなきゃ」「これはいい・悪い」「これが普通」といった自分を縛る考え方に捉われてしまいがちなこと。”Out of the box” で思考できるようになったら、もっと人生面白くできるのだろうな、と感じています。同時に、「3年夏」や「就活」を既に”Out of the box”に実践し始められているような気もします。ポーランドで人と出逢い対話する中で、自分を縛るものをまずは自覚して、ほどいてみる。そして将来についても、もっとのびのびと描いていきたいです!
 

国際教養学科 3年 松島海咲

 ポーランドに来て数日後、さっそくコロナに罹ってしまった松島海咲です。苦しい経験でしたが、人の暖かさや健康のありがたみを改めて感じられてよかったと思っています。
 現在私は2人部屋の大学寮で暮らしていますが、人によって生活スタイルは本当に様々!そしてコミュニケーションは取りながらも、みんな特に周りに合わせようとはせず、自分のスタイルを貫いています。そんな様子を見て、「これが普通」なんてないなあ、と感じ始めています。
 私の留学生活はまだ始まったばかり。これからまだまだ新たな発見に出逢えると思うと楽しみです。積極的に飛び込んで、より広い視野をもって将来についても考え続けたいです。

(福岡高等学校出身/国際関係コース ジャヤセーナゼミ)
 

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