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活動報告2025.11.26

グローバルリーダー演習履修生×福岡アジア美術館 コラボ企画 「私たちは『新たなる自画像』を描きたい! (11/1/土)」開催報告

履修生作のチラシ。
グローバルリーダー(GL)演習履修生と福岡アジア美術館のコラボイベントについて、履修生である環境科学科4年・福田優月さんと国際教養学科3年・上村明空さんが書き起こしてくれた報告です。今回の「開催報告編」に続き、追って、イベント企画運営の「裏話編」もアップされます。お楽しみに!

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2024年度からグローバルリーダー (GL) 演習を履修しているGLP3期生 (GL生) が、福岡アジア美術館 (あじび) ご協力のもと、あじび8Fの交流スタジオでイベントを開催しました。その名も「私たちは『新たなる自画像』を描きたい!」です。

2025年7月5日から11月30日まであじびで開催されていた、ベストコレクションⅢ「変革の時代、新たなる自画像」。この展示では、アーティスト自身が「自分とは何か」を問い直し、他者との関係の中で揺れ動く自己像——「新たな自画像」を描き出そうとする試みがなされていました。このテーマに呼応し、私たちは、自分や自分を取り巻く社会を捉え直し、「あたりまえ」から逸脱する怖さと向き合い、「こうしたい」=「新たなる自画像」を描きたい、という想いを込めました。
トークゲスト進藤さん(最前列ピンクの靴下)を囲んで。
事前に「変革の時代、新たなる自画像」展を観た、企画運営チームのGL生2名と学年学科国籍も異なる8名の参加学生、福岡アジア美術館の職員さん3名、アーティストトークゲスト・進藤冬華さん、そしてGL演習担当教員である和栗百恵先生・豊貞佳奈子先生の16名が集うイベントとなりました。

この記事では、企画運営したGL生、上村明空 (みく・国教3年) と福田優月 (ゆづ・環境4年) が、イベント開催の様子をレポートします!

イベントは、①GL生トーク&参加者トーク、②アーティストトーク、③みんなで鼎談の3部構成。椅子にテーブルではなく「何か新しいことを」と、和室でもないのに床に座布団を敷くアレンジにした会場で、イベントがスタートしました。

①GL生トーク&参加者トーク

緊張して早口なゆづに聴き入ってくれる参加者。
GL生トークと題し、GL生ゆづが自分の弱さも開示しながら語った「自分が囚われている『あたりまえ』に気づくと楽になる、だからといってすぐには抜け出せないもどかしさ」。

2024年度「企画づくりの基礎」の授業に、ゲストとしていらっしゃった、コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンの中村果南子さんから学んだ、パブリック・ナラティブ (公で語る物語) の手法を参考にしました。コミュニティ・オーガナイジングでは、人が行動を起こす時、そこには必ずストーリーが生まれ、人が動くためには、まず心が動かされるものだと考えられています。

パブリック・ナラティブは、語り手が「なぜ自分が行動を起こしたか、自身のストーリーを語って聞き手の共感を呼ぶこと (=Story of Self)」、「聞き手と自分自身が共有する価値観や経験といった『私たち』のストーリーを語り、コミュニティとしての一体感を創り出すこと (=Story of Us)」、「いま行動を起こすことについてのストーリーを語ることで、共に行動する仲間を増やすこと (=Story of Now)」を組み合わせた人の心を動かす物語です。

昨年度、授業で中村さんご自身のストーリーを聴き、ゆづ自身が心を動かされたことから、今回のイベントでは、まずは自分のストーリー (Story of Self) を語ることで参加者の心を動かし、「私たち」の「こうしたい」を表現することを、みんなの想いにしたいと考えました。
参加者トーク。共感や発見がたくさん。
GL演習で、「人々が共にポジティブな変化を成し遂げようとする、関係性と倫理性を伴うプロセス」というKomivesらが定義した関係性リーダーシップを学び、リーダーシップに対する考え方が変わった。

GL演習履修前は「でしゃばるとウザい」と思われることの恐れから、周りに合わせていたけれど、共にリーダーシップを学ぶGL演習の仲間なら受けとめてくれると信じ、思い切って自分の意見を言ってみるようになった。

そうやってGL演習のコミュニティではできるのに、他のコミュニティに行くと、また恐れが勝ってしまい、自分を出せない。

実は「でしゃばるとウザい」というような社会文化規範は、社会化の結果内面化されている。同時に、望むなら内面化された規範から脱することができると、今年度の「リーダーシップ論」で学んだ。そうして規範は外せると分かっても、簡単にはできない。

だからといって諦めたくはなく、ここにいるみんなで語り合い、想いを共有し、「私たち」の「こうしたい」を表現したい。


…そんなストーリーを率直に語りました。続く「参加者トーク」と題した、参加者が3~4名に分かれて語り合う時間では、

「誰でもリーダーになりうるのは分かっている、でもリーダーとして行動することで浮いてしまうのは嫌だ」

「自分の『こうありたい!』を表現したい気持ちと、周りから『意識高いね』と言われそうで怖いという葛藤」

「『ここではできるけと、日常ではできない』というのが当たり前すぎてそういうものだと受け入れていた」

「ゼミや学祭・授業、有志活動など、何かに一生懸命にがんばっても『まじめだね』という一言で片づけられてしまうことにモヤモヤ…」


といった想いを聴くことができ、GL生トークで語ったことは、ゆづだけが感じていることではないということも分かりました。

また、「変革の時代、新たなる自画像」展の図解ガイドをもとに、印象に残っている作品についても語り合いました。ある参加者は、ジャン・ペイリーの「ドキュメント:衛生 No.3」(1羽の鶏が洗面器に入れられて、石鹸で洗われ続ける様子を映した映像作品。最初は抵抗する鶏。しかし、だんだんとおとなしくなっていく) と重ね、「自分の意見を言おうと思っても、どうせ伝わらないから諦めてしまう」と語ってくれました。

それぞれが感じる規範やそれに対するモヤモヤを率直に語り合うことができた参加者トーク。私たちは、その中でどのように自身の「こうしたい」を表現できるのか。そんな問いを持ちながら、次のアーティストトークの時間を迎えました。

②アーティストトーク

進藤さん×ゆづ対談形式で。進藤さんは参加者の課題感を真摯に受けとめ、一緒に考えてくださいました。
北海道から、アーティスト・イン・レジデンス (アーティストが一定期間、普段と異なる土地に滞在して創作活動を行う) 事業で来福中の進藤冬華さんをお迎えし、自身をとらえる「呪い」や「ズレ」(SIAF2024ビジターセンタートーク 「アーティストが語る、札幌の今」での進藤さんの言葉)について、そして、それらとどう向き合っているのかについてトークを展開していただきました。

大学時代に、留学先で自身について語ることができなかったという経験から、自分のルーツについて考えはじめたという進藤さん。それをきっかけに、北海道の歴史や文化に関する作品を数多く制作されています。

そんな進藤さんに、アーティストとしての視点から、アートというものは違うことがあたりまえであるというお話もしていただきました。アーティストは、人と違う表現をすることで評価されるため、アートという枠に自分をはめるのではなく、「こっちでもいいんだ」という自由さを感じることが多くあるとおっしゃっていました。それに続いて、人と違うことをする=「ズレる」ことを恐れすぎるのはもったいないというお話は、普段「ズレる」ことが怖くて「あたりまえ」から逸脱できない私たちにとって一歩踏み出せる勇気になりました。

私たちは、ネガティブな感情を良くないものとして捉え、自身の中から消し去ろうとすることもあります。しかし進藤さんは、自身の「呪い」や「ズレ」のようなネガティブな感情から解放されないこともあるけれど、それも自身の一部として消さずに残していらっしゃいました。ありのままで自分自身を語る進藤さんの姿も印象的で、そんな人柄に参加者が惹きこまれていきました。

「周りからどう思われるか恐れる気持ちももちろんあるけれど、それ以上に、自分の中でもやもやする気持ちに対して向き合いどうしていきたいかを考えることが自分を表現できるヒントになる」

「不安に押しつぶされそうなとき、周りの人の力を借りるというのは、今まで自分はやってこなかったことで、新しい発見」


…参加者の気づきの一部です。

③みんなで鼎談

第1部・第2部を経て、もう一度参加者トークのグループで、自分の「こうしたい」を語り、落書きのように気軽に描き出すことを意図した時間。(鼎談とは本来3人で向かい合い話をすること。今回は、3、4人のグループで!)

「美術やアートと聞くと、きれいなものをつくらないといけないイメージがあるよね」という社会規範についても語りながら、床に広げた一枚の画用紙を囲み、クレヨンを使って描いたのは、あじびの展示やGL生トーク、進藤さんのお話から刺激を受けて生まれた「こうしたい」。

ここで、参加者が描いた3つの作品を紹介します!
「ひかりもの」
「ひかりもの」

仲間づくり、コミュニティづくりの過程を表現した作品。

ダイヤモンドは光を反射して輝く。それは光を与えてくれる存在 (機会をくれる人) があってこそである。ダイヤモンド (自分) の光を受けて光り始めたダイヤモンド (他者) は、さらに光を反射して次なるダイヤモンド (他者) へと光を照らし、光を照らす連鎖は続いていく。
「個々の想いがみんなの想い」
「個々の想いがみんなの想い」

4人の想いをマリアージュした作品。

「もやもやしながらも、心の中に希望や信念を持って前進したい」

「自分と他者、社会の物事を意図的につなげて、そこから自分は何を還せるかを常に検討し続けたい」

「ジャン・ペイリー『ドキュメント:衛生 No.3』の鶏と自分を重ねたけれど、give upせず、自分を表現できるように学びたい」

「もやもやもしんどさも自分の一部のままでいいから『こうしたい』の希望も捨てたくない」


…それぞれの想いに共感したことから、色や図形を合わせながら描き、バラバラな想いではなく、みんなが持っている想いであることを表現している。
「静動」
「静動」

進藤さんの「重い車輪を回すようなもの」という言葉を起点に描いた作品。課題、企画づくり、サークル、バイト、人間関係...時に、「荷が重い」と思ってしまうことも。

重い車輪に圧される瞬間もあるが、回せば必ず転がりだす喜び、暗い過去や明るい未来への希望を多くの色で示した。ひとりではなく仲間と共に車輪を回す姿を描いたものである。
普段、こんなふうに絵を描く機会はなかなかありません。「自分の想いを自由に描いてみましょう!」の呼びかけに、参加者たちは「絵を描く」にまつわる規範ゆえか若干戸惑いながらも、グループでおしゃべりしながら楽しんで描けたようでした。

…それぞれの学びから「こうしたい」を表現できた、「私たちは『新たなる自画像』を描きたい!」。今回の開催報告には続編があります。その名も「裏話編」!遡ること1年以上前となる、あじびとのコラボのきっかけから当日までの、決して平たんではなかった道のりと、そこから生み出した気づきや学び、つまり「新たなる自画像」をお届けすべく、絶賛執筆・推敲に取り組んでいます(11/25現在)。