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活動報告2025.01.20
熊本県教育研究集会にて福女大での取組を発表した国教3年・水上真菜さんインタビュー:平和を「なかま」とつくっていくこと&リーダーシップについて
国際教養学科3年・吹原ゼミ(日本語教育)の水上真菜さんが、熊本県高等学校教職員組合・熊本市教職員組合・熊本県高等学校教職員組合が昨年11/2に開催した熊本県教育研究集会「子どもをまん中に」の教科別分科会の社会科教育分科会において、福女大準正課活動「カタカタ」での取組を紹介しました。
「カタカタ」とは、福岡女子大学2020年度国際文理学講究「地域共創論」のスピンオフとして生まれた「社会課題を自分ごととできる語りの場をつくる」活動で、過去4年間に渡り学生が活動を継続しています。
そのカタカタで、2024年9月、水上さんの企画「じいちゃん、戦争で何があったと?カタカタで戦争体験を聴いて、語り合おう」が開催され、その様子は西日本新聞で記事化されました。記事化について水上さんが高校時代の恩師に報告をしたことがきっかけとなり、社会科教育分科会で取組を紹介させていただくことになりました。
社会科教育分科会は、ひのくに高等支援学校の前田未宙(みそら)先生のとりまとめで行われ、「今だから平和について考える」というテーマのもと、高校生や大学生、そして一般社団法人teamはちどりがそれぞれの活動についてディスカッションするものでした。当日は熊本県内の高校から6名の先生方、それぞれの所属高校で平和活動に携わる2名の高校生、そしてteamはちどり代表理事の髙木あゆみさんと水上さんが参加しました。
ここからは、そんな水上さんのロングインタビュー記事です。
じっくりご覧ください。
先般ノーベル平和賞を受賞した被団協(原水爆被害団体協議会)熊本県支部の活動をされている先生とのご縁
元高校教員で熊本県高等学校教職員組合執行委員長、高校生平和大使派遣委員会共同代表、そして熊本県原水爆被害者団体協議会理事、熊本被爆二世・三世の会会長をされている青木栄先生がきっかけです。
私は高校時代に「高校生平和大使」 の活動をしていて、青木先生のお父さまの被爆体験や、高校生平和大使としてどんな思いを持って活動してほしいかについての真っすぐな投げかけをいただく機会がありました。戦争を経験していなかったとしても、戦争や被爆を知って語り継ぐ活動を地道に続けていくことによって平和な世界はつくれると淡々と語ってくれたのが青木先生だったのです。
とはいえ、大学生になってなかなか行動できず…。大学3年となった4月に環境科学科・和栗百恵先生担当の「国際文理学講究Ⅰ:企画づくりの基礎」を思い切って履修したんです。授業の中で、2020年から続く福女大準正課活動「カタカタ」での平和企画を構想、カタカタメンバーの全力応援にも支えられて9月に企画を実現することができました。その時に、青木先生に伝えたいという気持ちがまっすぐに出てきて、お知らせしたんです。
青木先生からは、親戚など身近な人から戦争体験を聴くことこそ極めて重要だけれども皆が皆それができるわけではない、そして2025年に戦後80年を控え、熊本でもそのような取組が叶えば、というお言葉をいただきました。さらには、ぜひ熊本に来て交流をしてほしいと。
―― それを聞いて、どんな気持ちになりましたか?
その青木先生の言葉から、幼少時から祖父が私に戦争のことを話してくれたのはとても貴重なことだったんだ、と改めて感じることができたんです。自分にとってあたりまえなことは、他の人にとってはあたりまえではないこと。祖父の戦争体験を私が聴いて終わりにするのではなく、大学に祖父を呼んで、参加してくれるなかま*と一緒に祖父の戦争体験を聴く機会の意味自体を、再確認できたんです。
企画を構想したものの自分で十分言語化できていなかったことを、青木先生のお声がけによって確認できたんだと思います。そして高校生に話をしてほしいという促しがとてもうれしく、青木先生からのメールに、「青木先生や高校生のみなさんに会ってお話ししたいです」とすぐに返信しました。
落ち込むこともあった準備プロセス、そして当日は…
カタカタ運営メンバー、カタカタを支え続けてくださっている大学近隣のカフェ・KATAOSA COFFEEの萬野さん、和栗先生に連絡しました。みなさんとても喜んで、応援してくださいました。
まずは、カタカタができた背景や先輩方がどんな思いを持ってカタカタを続けてきているのか、という背景、8月のカタカタ・パレスチナとイスラエルの企画といった活動につなげて祖父の戦争体験を聴く企画となるようにしました。
また、和栗先生からは、「企画づくりの基礎」を通じて、どんなふうに企画としてつくり上げていったのかを取り込む視点を教えていただきました。「企画づくりの基礎」で学んだGISOVフレームワークや、色々と失敗しながらもいろんな人が関わってくれてつくり上げられたことを話すことにし、開催日ぎりぎりまで準備(笑)。参加者には何を伝えると伝わるのかな、何を知りたいと思っているのかな…と悩みながらスライドを作成し、何度も発表の練習をしました。
高校の先生方に向けて話すのが初めてで。どんな雰囲気なのだろうと緊張しながら、でも、私が話すことで、先生方、そして他の参加者にも何か一つでも渡せたら、という思いで会場に向かいました。
分科会とりまとめ、そして司会も担当された前田先生が、「高校教員だけではなく高校生や大学生も来てくれてお話が聞けるということで楽しみです」と紹介してくだり、関心を持ってくださっているんだ、ということが、リアルになりました。それがうれしかった。そして同時に、自分の言葉でちゃんと伝えたいという気持ちが新たになったんです。
―― ご家族からはどんな反応が…?
実は前日のうちに熊本の実家に帰り、家族に発表を聞いてもらいました。両親は「今の自分の言葉で伝えてくればいいと思うよ」、祖父母は「あの時の企画が今もこうやって広がってくれてうれしいよ。発表がんばってね」と。不安を感じていたのですが、自分なりに伝えてみようと前向きな気持ちになれました。
―― 分科会での経験交流からどんな視点を得られましたか?
「平和」の解像度を上げるという視点です。この言葉は親子でヨーロッパを回って難民取材をされてきた高木さん(teamはちどり)の話から学びました。
「平和」という言葉を使うだけではそれがどんな「平和」なのかはわからない。「平和」は曖昧な言葉であるからこそ、自分が思う「平和」がどんな世界なのかを考えて言葉にしていく必要があると。自分で考えるだけではなく、普段の生活の中で身近にいる人と「平和」って何だろうと一緒に話す時間を作っていくことで、解像度が上がった現実をつくる一歩になると感じました。
「世界を動かすひとになる」やリーダーシップについて学んだことについて
一つは、1人ではできないことも誰かと一緒にすることで成し遂げられるということ。私がカタカタで企画ができたのも、今までカタカタを続けてきた先輩方が運営メンバーでもない私を受け容れてくれ、一緒に企画をやろうと言ってくださったからです。企画実現までの過程をふりかえると、最初にカタカタメンバーと企画の目的・目標を共有し進めていったこと、意見を出し合って準備をしていったこと、自分の担当が手いっぱいだった時は代わりにしてくれる人がいたなど、リーダーシップの最小3要素(*1)である、目的・目標共有、率先垂範、相互支援でリーダーシップの取組が進行したと思います。
実は、企画準備プロセスで、私だけの判断で企画内容を変更したりプレスリリースを進めたりしてメンバーに伝えられていないことがありました。その時、和栗先生やカタカタメンバーがみんなでつくりあげている企画であることに気づかせてくれ、「みんなでつくりあげる」を構成する具体的行動をふりかえる機会になりました。とはいえ、最初は落ち込みました(笑)。落ち込んだものの失敗から学ぼうと気持ちを切り替え、企画の道しるべをみんなに伝えることを意識し、進捗状況を定期的に共有したり、少しでもわからないことは相談したりするようにしました。また、相手にどんな伝え方をしたら動きやすいかを考え伝え方を工夫するようにしたところ、メンバーがコメントをくれたり反応してくれる機会が増え、企画をみんなでつくりあげていることを実感しました。カタカタ当日は、場の雰囲気づくりにメンバーが注力してくれたことで、自由に語り合うことができたんです。
はい!そしてもう一つ学んだことがありました。カタカタの取り組みが社会を変えるきっかけになるということです。9月の企画が終わった後、「今まではなんとなく避けてきたけれど自分の祖父母に戦争のことを聴いてみたいと思う」「カタカタに参加したことを家族や友人に話したい」と言ってくれたなかまがいたのです。
カタカタで戦争体験を聴いて思ったことを語り合えた時間から、「こんなことを語り合えた・学べた」実践を今度は自分が話してみようと思うきっかけになったみたいで。私自身、カタカタに今まで参加し語り合うことを通じて、それぞれいろんなことを考えているんだと痛感していて、もっと気軽に色々なことについて周りの人と話してみたいと思うようになっていたんです。それが今回、カタカタでしたいと考えた企画にもつながっています。
企画という場があることで、「参加」が叶い、そこにいる人たちと語り合い、自分がどうしたいのかを考え行動していく。それは、お互いに影響を与え合う、つまり行動に変化をもたらすことになるのではないでしょうか。このことは「リーダーシップは変化をつくりだす」(*2) に結びつくと思いました。これまでの自分の行動をリーダーシップに結びつけふりかえると、リーダーシップが特別なものではなくて自分にも関係があると実感しました。
「これからも平和のために行動したい」
これからも平和のために行動し続けたいです。ほんとうは思い出したくないはずの被爆体験を被爆者の方々が自ら語り続けて、核兵器廃絶を訴えてきたことがノーベル平和賞という形で世界に届いたと感じて、私たち市民が声を上げることに意味はあるんだと実感しました。でも、被団協がノーベル平和賞を受賞したのは、世界では戦争があって、日本を含めた各国が軍事費を増やしたり、核を持とうとしたりしていて、核兵器がいつ使用されてしまうかわからない危機的な状況であることも関係しているのではないかと思います。そんな今だからこそ、日常の中から小さな平和を積み上げることをみんなでやっていきたいです。
私は今、「平和と安全保障」という授業を履修していて、この授業では「平和とは何か?」を話し合うワークショップも予定されています。そのような機会を活かして、被団協のノーベル賞のことを話してグループの人がどんなことを感じているのかを共有したり、戦争がどんなもので、なぜ平和が大切なのかを考えて話す時間をつくっていきたいです。
また、先日大学の正門で「軍事力拡大に反対する福女大ネットワーク運動」を立ち上げた先輩が話しかけてくださり、戦争のない世界をつくりたいと思って行動しているなかまがこんな近くにいたんだと感じてとてもうれしくなって。まずはその活動に関わっている学生メンバーと話をしたいです。
ゼミでは、カタカタでの企画や戦争や平和のことをあまり話せていないことが心に引っかかっていたんです。なぜ話せないのだろうと考えてみたら、考えたくないって思われるかな、意識が高いと思われちゃうかなと思っている自分がいることに気づきました。
今まで、「意識がある人だけの平和活動にしたくない」「一人ひとりに関係があるからこそみんなと戦争のこと、平和のことを考えていきたい」と思って活動してきたはずなのに、それとは逆の行動をしていたとハッとしました。でも、ゼミで企画のことを話すだけでは「すごいね」で終わっちゃいそうで、どんなふうに話題にすればみんなで考えられるのだろうと思うところもあります。
でも考えたり語り合うのに正解はないし、もやもやも含めて話してみることが「すごいね」で終わらないことになるんじゃないかと思います。平和だからこそ思っていることを言葉に出せるんです。私もやってみようと思うので、みなさんにも、自分が思っていること、気になっていることを話してもらえたらうれしいです。
(2024年12月のインタビューより)
(*1)・(*2) 福岡女子大学女性リーダーシップセンター・学生支援センター(2024)「私はリーダーに向いていない:“My Leadership” Journeys」内、リーダーシップの8つのキー概念,リーダーシップの最小三要素(p. 5)より。